
― 落花生の王様「おおまさり」と、自然と人が紡ぐ焙煎の物語 ―
2年越しの知らせ。
「おおまさりを収穫したから、見に来てくれ。」
そんな連絡が入ったのは、2年越しの秋の日でした。
「おおまさり」とは、大粒で甘みが強く、やわらかい落花生の品種。
一般的な落花生の約2倍の大きさを誇る、まさに“落花生の王様”です。
友は、無農薬・自然栽培で育てた「おおまさり」を丁寧に選別し、大きなものだけを譲ってくれようとしていました。
彼らは、塩ゆでにして味わうのがいつもの楽しみ。
それはそれで十分に美味なのです。そして、私たちには、もうひとつの“うまい食べ方”があります。
1.土とともに生きる友たち

無農薬で育てられた落花生はうまい。
無農薬だからうまいのか?
生産者の想いがうまさに繋がっているのか?
その謎はわからない。
そのままでも「おおまさり」が美味しいのは知っている。
だから友に「収穫した分は全部引き取るよ。」と伝えると、友は笑っていました。
なぜだ?
自然栽培を愛する彼ら。
年金で暮らす者。
バリバリ起業する者。
定年を迎え再雇用される者。
新車で買えば2,000万円はするベンツのゲレンデを愛車にする者。
生きる価値観はそれぞれ違っても、週末になると同じ畑に集い、土をいじり、自然とふれあう。その姿は、なんとも眩しいものです。
2.自然栽培の「おおまさり」
16kgの「おおまさり」。
その日の夕方6時近く、外は暗くなりきっていました。
そんな中、仲間の一人が16kgの「おおまさり」を届けてくれたのです。
昼間に見に行ったときには泥のついていた豆が、洗われ、丁寧に選別されている。
彼は笑いながら言いました。
「遅くなってすまんなぁ。一所懸命に選別したけれど、16kgしか持ってこれなかった。15kg分の値段でいいよ。」
半年にわたる畑仕事の成果を前にしたその表情には、満足と静かな誇りがありました。
200kgも300kgも勝手に想像していた私は、自分の浅はかさを恥じました。
3.自然の中の彼ら、そして、私たちの流儀

彼らは自然そのもの。
陽が昇り、陽が沈むまで、自然とともに生きる人たち。
私たちの工房もまた、自然のリズムに寄り添いながら、焙煎という“手仕事”を積み重ねる家内制手工業です。
本物を、自然に、できるだけそのままに。――それが、私たちの流儀です。
4.「恵み」を受け継ぐ
彼らは、儲けたくて、商売のために豆を分けてくれたわけではありません。自然からの恵みを、心から分かち合おうとしてくれただけ。私たちは、その“思い”を受け継ぎ、焙煎というかたちで応えるのです。
摩訶不思議な「おおまさり」。その粒を、丁寧に乾燥させ、手で殻をむき、直火でじっくり煎る。「おおまさり」が煎り上がりを教えてくれるまで、私たちはただ観察します。
自然が育て、収穫した仲間の想いを味わいながら――。
焙煎のひとときは、贅沢そのものです。
5.自然のままに仕上げる

「おおまさり」を美味しく食べる方法は、人それぞれ。
私たちの工房は、自然の中で仲間が育てた恵みに、ほんのひと手間を加えるだけ。自然に育てられたものは、そのまま自然に仕上げていく。そんな食べ方が、いちばん似合うと感じています。
煎り上がったら、あの仲間たちに届けよう。
「プロが焙煎した味は、どうよ!」――そんな、謙虚さのかけらもない冗談を添えて。
塩ゆでの美味を知る彼らは、きっと「おおまさり」を育てた想いに、もうひとつの装いを加えてくれるはずです。
声をかけられたご縁に、心から感謝しています。そして今日も、焙煎機の火を見つめながら、自然と人が生み出す“真の味”を探しています。
山王珈琲焙煎所は、自分を見失いそうになった時に、『自分を取り戻すための一杯のコーヒー』を提供したい想いで始まりました。そのコーヒーのパートナーとして、自然の素材を活かしたチョコレート、ナッツを仕上げています。
私たちのものづくりの原点です。
PS
そんな仲間から「畑グループに入らないか」と誘われましたが、私はそれをぶっきらぼうに断りました。(笑)
なぜかというと、焙煎の工房に“つくる”人として、自分の場所があると感じたからです。
▼山王珈琲焙煎所の自家焙煎ナッツ:
https://www.sanno-coffee.jp/various-products#roasted-nuts
